Gankam Kengne F, Couturier BS, Soupart A, Decaux G. Urea minimizes brain complications following rapid correction of chronic hyponatremia compared with vasopressin antagonist or hypertonic saline. Kidney Int. 2015;87(2):323-31. [Pubmed]
重症で慢性の低Na血症の治療においては、急速な過補正による浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome; ODS)を起こさないようにすることが重要である。高張食塩水とともに、海外ではバソプレシン受容体拮抗薬(バプタン)も低Na血症の治療薬として使われている。また、尿素は、わが国では薬物として承認されていないが、2014年に発表された欧州の低Na血症の診断治療ガイドラインは、以下のようにSIADHによる慢性で軽症の低Na血症に対して尿素の使用を推奨している。
7.4.3.2 In moderate or profound hyponatraemia, we suggest the following can be considered equal second-line treatments: increasing solute intake with 0.25–0.50 g/kg per day of urea or a combination of low-dose loop diuretics and oral sodium chloride (2D).
尿素の低Na血症に対する治療効果は3つあると考えられる。1つは、脳浮腫の改善効果である。尿素は、尿素トランスポーターによって、水と同じくらいのスピードで筋肉などの細胞膜を通過するが、Blood-Brain Barrierはやや透過しづらい。したがって、尿素の投与による急速な血清尿素濃度の上昇は、Blood-Brain Barrierにおいて、浸透圧勾配を作り出し、脳からの水の流出を起こし、脳浮腫を改善する。2つめは血清Na濃度の上昇効果である。尿素は利尿物質としてもはたらく。尿素は糸球体を通過し、通過した約半分が尿中に排泄され、その際に、自由水の排泄も促す。これにより、血清Na濃度の上昇に働く。3つめに尿素の高浸透圧ストレスに対する保護作用である。尿素は、細胞を高浸透圧のストレスから保護する効果がある。尿素を培地に添加すると、腎髄質培養細胞は尿素なしではアポトーシスを起こすような高塩濃度でも生存可能である。慢性低Na血症における急速な補正によって起こるODSは、アストロサイトのアポトーシスが病態であると考えられている。尿毒症ラットでは、慢性低Na血症を高張食塩水で補正したときにODSをおこしにくいことが示されている。
2015年のKidney International誌において、Gankam Kengreらはラットにおいて、尿素を用いて低Na血症を急速補正した場合には、高張食塩水またはバプタンを用いたときに比べて、ODSが起こりにくいことを報告した。
臨床研究では、尿素のバプタンに対するSIADH患者への長期治療で同程度とであることが示されているが、本研究をもとに、過補正によるODSの発症頻度が低いことを示すような臨床研究が必要であろう。