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アシドーシスによるKシフトのメカニズム

尿細管アシドーシスや下痢などによる無機酸の蓄積によるアシドーシスでは、H+が細胞に入るのと入れ替えに、K+が細胞から外に出てくるため、血清Kが上昇する。一方で、乳酸アシドーシスやケトアシドーシスのような有機酸の蓄積によるアシドーシスでは血清Kは上昇しない。この現象は、以下の論文でもきれいにしめされている。

ph_on_potassium

(ROSEの本よりコピー)

Perez GO, Oster JR, Vaamonde CA. Serum potassium concentration in acidemic states. Nephron. 1981;27(4-5):233-43.

そのメカニズムについては、以下のように考えられている。

そもそも、Kのもっとも大きな貯蔵庫となっている筋肉においてはK-H交換体という実体は存在しない。実際には、複数のトランスポーターがカップリングすることで、最終的に、HとKが交換されるようになっている。

具体的には、

  • Na+-H+交換体とNa+-K+-ATPaseのカップリング
  • 2HCO3—Na+交換体とNa+-K+-ATPaseのカップリング
  • HCO3—Cl-交換体とK+-Cl-交換体とのカップリング

などがある。

 Fig3

Aronson PS, Giebisch G. Effects of pH on potassium: new explanations for old observations. J Am Soc Nephrol. 2011;22(11):1981-9.

無機酸によるアシドーシスの場合、H+が増えると、Na-H交換体が活性化し、細胞内のNa濃度が下がる。したがって、Na-K-ATPase活性も低下するので、血清K濃度が上昇する。

一方、有機酸によるアシドーシスの場合、血清Kは上昇しないが、そのポイントは、筋肉にはmonocarboxylate transporter (MCT; MCT1 and MCT4)が存在すると言うことにある。有機酸によるアシドーシスの場合、monocarboxylate transporterにより有機酸塩とH+は細胞内に取り込まれ、細胞内のH+濃度が上昇することにより、Na+-H+輸送体が活性化し、細胞内Na+濃度が上昇する。それにより、Na-K-ATPaseが活性化し、細胞外のKは細胞内に取り込まれるために、血清Kは上昇しないのである。

Fig2

Palmer BF. Regulation of Potassium Homeostasis. Clin J Am Soc Nephrol. 2015;10(6):1050-60.


K摂取を増やすと、なぜNa利尿を起こすか

友人に、「K摂取を増やすとNa利尿がおこることは、よく経験することだが、皮質集合管では、KとNaの輸送は逆向きであり、K摂取を増やすとNaの尿中排泄は減るように思えるのだが、これはいかなるメカニズムなのか」という質問を受けました。比較的まじめに、回答しましたので、こちらにもシェアしておきます。
 
非常によくできた総説は、先月号のCJASNにある以下の総説です。
Palmer LG, Schnermann J. Integrated Control of Na Transport along the 
Nephron. Clin J Am Soc Nephrol. 2015;10(4):676-87.
 
この総説の、最後の項を参考にしながら、K摂取を増やすと、なぜNa利尿を起こすかを説明します。
 
血清Kの急激な上昇は、Na利尿をおこします。このメカニズムは、血清Kの急激な上昇が、近位尿細管、TAL、DCTにおけるNa再吸収を減少させることによると考えられています。ただし、近位のネフロンセグメントでの変化は、糸球体尿細管バランスや尿細管糸球体フィードバックによって、大部分は代償されてしまいます。しかし、DCTにおけるNa再吸収はそのような代償メカニズムの影響を受けません。DCTにおけるNa再吸収の減少は、より遠位のアルドステロン感受性遠位尿細管へのNaデリバーを増やし、Naの再吸収とKの排泄を増加させます。実際、血清Kの急激な上昇が、DCTのサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体NCCのリン酸化を減少させていることが示されている(1)。慢性的なK摂取の増加は、NCCのリン酸化のみならず、NCCの総数自体を減少させること(2)、および、NCCの細胞表面への発現も減少させていることが示されている(3)。
 
つまり、キーになるのはK摂取によるDCT(遠位曲尿細管)におけるサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体NCCの活性低下です。
 
1. Sorensen MV, Grossmann S, Roesinger M, Gresko N, Todkar AP, Barmettler  G, Ziegler U, Odermatt A, Loffing-Cueni D, Loffing J. Rapid dephosphorylation of the renal sodium chloride cotransporter in response to oral potassium intake in mice. Kidney Int. 2013;83(5):811-24.
2. Vallon V, Schroth J, Lang F, Kuhl D, Uchida S. Expression and phosphorylation of the Na+-Cl- cotransporter NCC in vivo is regulated by dietary salt, potassium, and SGK1. Am J Physiol Renal Physiol. 2009;297(3):F704-12.
3. Frindt G, Palmer LG. Effects of dietary K on cell-surface expression of renal ion channels and transporters. Am J Physiol Renal Physiol. 2010;299(4):F890-7.

電解質を勉強するための良書

学生、初期研修医、および、電解質についてまとめて勉強したいという初学者にまずおすすめしたいのが、手前味噌で申し訳ありませんが、私の著書

『電解質輸液塾』門川 俊明 、中外医学社

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症例ベースで使うなど、初学者でもクリアカットに理解できるような工夫をしています。この本がマスターできたら、

『より理解を深める!体液電解質異常と輸液』柴垣 有吾、中外医学社

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に進むのがよいでしょう。私の友人でもある柴垣先生が書いた、この本は、本当によくできた本です。レベルとしては、腎臓専門医を目指す人向けと言っていいと思いますが、日頃感じる、水・電解質の疑問のほとんどに答えてくれます。私自身、本書を隅から隅まで読み込んで、自分の知識のブラッシュアップに非常に役立ちました。柴垣 有吾先生の、アメリカ仕込みの臨床腎臓病学の知識は、他の書物と一線を画しています。短期間の間に第3版まで改訂し、最新の知見を盛り込もうとする彼の誠実さを表した良書です。

さて、この次の本となると、残念ながら、日本語のテキストブックでおすすめできるものはありません。一つの道は、個々のトピックごとに、UpToDateを読むというのがよいと思います。それでも、どうしても、テキストブックが読みたいと言うことであれば、

『Clinical Physiology of Acid-Base and Electrolyte Disorders (Clinical Physiology of Acid Base & Electrolyte Disorders)』Burton Rose Theodore Post 、McGraw-Hill Professional

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をおすすめします。アメリカでも、電解質を真剣に勉強する人は、みんなこの本を使っています。2014年10月に第6版が出る予定ですが、何回も延期されているので、ホントに出るかどうかは分かりません。

さて、これ以外にも電解質に関しては、いくつかおすすめの本があります。

『輸液を学ぶ人のために』和田 孝雄、医学書院

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電解質と言うよりは、輸液の本ですが、私の研究室の大先輩である和田孝雄先生の本。学生時代にご自宅にお邪魔したこともあったのですが、残念ながら、若くしてお亡くなりになりました。和田先生は、多くの「水電解質」の本を書かれていますが、改訂されることがなくなっているにもかかわらず、今でも売れ続けています。和田先生の著作の中でも、もっとも売れている本が、本書です。和田先生が看護師の方2人に、輸液の基礎を講義していくというスタイルの本です。とても読みやすく、頑張れば1日で読み切れるような本ですが、私は、輸液の考え方を学ぶのにもっとも適した本だと思い、多くの研修医に推薦しています。輸液の考え方を学びたいという初期臨床研修医向け。

『シチュエーションで学ぶ 輸液レッスン』小松 康宏、メジカルビュー社

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この本は輸液レッスンというタイトルですが、電解質のホントしても秀逸です。とてもわかりやすい構成です。

『水・電解質と酸塩基平衡―Step by stepで考える』黒川 清、南江堂

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電解質の本ではロングセラーの本。見た目はやさしそうですが、中身は意外と歯ごたえがあります。いきなり初学者の方がやっても、跳ね返されてしまうかも知れませんが、ロングセラーなだけの理由があります。


TTKGはもう使わない方がよい

TTKG(Transtubular K gradient)は、腎臓における主たるK排泄のセグメントである皮質集合管におけるK分泌の指標であり、臨床において、低K血症、高K血症の鑑別診断に有用とされてきた。

しかし、TTKGをもともと提唱したHalperinは、2011年に出した下記の論文で、内髄質集合管において大量の尿素の再吸収が存在することから、TTKG算出の仮定が崩れたので、もはや、TTKGは使わない方がよいと薦めている。

Kamel KS, Halperin ML. Intrarenal urea recycling leads to a higher rate of renal excretion of potassium: an hypothesis with clinical implications. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2011;20(5):547-54.

As a large quantity of urea is reabsorbed daily in the inner medullary collecting duct, the assumption made in the calculation of the transtubular K concentration gradient that there is no appreciable reabsorption of osmoles downstream CCD is not valid.

実際、UpToDateを読むと、

Transtubular potassium gradient — In a later publication, the authors of the original studies found that the assumptions underlying the TTKG were not valid. It was concluded that the TTKG was not a reliable test for the diagnosis of hyperkalemia. We recommend not using the TTKG to evaluate patients with hyperkalemia.(UpToDate, Causes and evaluation of hyperkalemia in adults)

となっており、高K血症の鑑別においてTTKGは使わないようにと明記してある。

低カリウム血症の鑑別においては、そこまで踏み込んで書かれてはいないが、腎臓におけるK喪失の有無は24時間蓄尿または、スポット尿におけるカリウム-クレアチニン比で判断することが薦められている。

 Assessment of urinary potassium excretion — The best method for assessing renal potassium excretion is a 24-hour urine collection. However, the potassium concentration or, preferably, potassium-to-creatinine ratio on a spot urine are alternatives.(UpToDate, Evaluation of the patient with hypokalemia)

私が愛読しているPrecious Bodily Fluids http://www.pbfluids.comには、こんな皮肉の写真が載っている。


GOLDMARK-AG増加型代謝性アシドーシスの原因

anion gap増加型代謝性アシドーシスの原因の覚え方として、有名なのは、以下の2つである。

KUSMALE
K; Ketoacidosis
U: Uraemia
S: Salicylate poisoning
M: Methanol
A: Aldehyde (paraldehyde)
L: Lactate
E: Ethylene glycol

MUD PILES
M: Methanol
U: Uraemia
D: Diabetes
P: Paraldehyde
I: Iron (and Isoniazid)
L: Lactate
E: Ethylene glycol
S: Salicylate

しかし、近年、paraldehydeによる代謝性アシドーシスはきわめて稀になっている。IronとIsoniazidは代謝性アシドーシスをおこす多くの薬剤の一部でしかない。近年注目されているのは、D-lactic acid(short-bowel syndromeで見られる)、5-oxoproline (or pyroglutamic acid)  (慢性のparacetamol使用に伴う)、高濃度のpropylene glycol 投与(いくつかの薬剤の溶媒)である。

そこで、新しいアニオンギャップ増加型代謝性アシドーシスの原因の覚え方として、次のものが提案されている。

GOLD MARK
G: Glycols (ethylene and propylene)
O: Oxoproline
L: L-lactate
D: D-lactate
M: Methanol
A: Aspirin
R: Renal failure
K: Ketoacidosis

Mehta AN, Emmett JB, Emmett M. GOLD MARK: an anion gap mnemonic for the 21st century. Lancet. 2008;372(9642):892.