東南アジア楕円赤血球症(SAO)はパプアニューギニア、インドネシア、マレーシア、フィリピン、南タイなどに多く、特定の地域住民では30%に達する有病率がある。
SAO はCl-/HCO3-交換体-1(AE-1)をコードする SLC4A1 遺伝子中の 27 塩基の欠損(ヘテロ変異)などの変異が原因であることが知られている。この変異によって、赤血球の陰イオン輸送活性が低下し、赤血球の剛性が高まる。末梢血塗抹検査により特徴的な丸みを帯びた楕円赤血球を観察されることで診断される。臨床症状は時に貧血が見られる程度である。東南アジアは歴史的に熱帯性マラリアの発生率が高い地域であり、SAO は熱帯熱マラリアに対して抵抗性を与えることから、遺伝適応により生じたと考えられている。
AE1は赤血球膜以外にも、腎臓集合管A型間在細胞の基底膜側にも発現しており、腎臓AE1(kAE1)は赤血球のAE1と同じ遺伝子から転写されるが、異なるプロモーターを使っていて、赤血球のAE1に比べて、N末端の65アミノ酸を欠いた短い産物である。
SAOの有病率が高い地域では、遠位型RTAもよく見られるが、SAO患者に見られるAE1の遺伝子変異そのものでは、腎臓での酸排泄は障害されない。
SAOと遠位型RTAを認める2つの症例の分析では、それぞれ、Ex 11Δ27のヘテロ変異でSAOをおこし、G701Dのヘテロ変異では正常、Ex 11Δ27とG701Dのコンパウンドヘテロ変異でSAO+dRTAをおこしていた。
kAE1の変異は陰イオン交換活性には影響を与えないが、kAE1のフォールディングや構造変化をおこす。kAE1のS773PやG701Dといった変異は、劣性変異であり、変異AE1と野生型AE1のヘテロオリゴマーは、トラフィッキングに異常がない。変異AE1のホモオリゴマーは、G701Dはゴルジにとどまり、S773Pは基底膜側にトラフィッキングされるが、フォールディングに異常があるため輸送活性がない。kAE1のR901XやG609Rといった変異は、優性変異であり、変異AE1と野生型AE1のヘテロオリゴマーは、一部が管腔側膜に誤挿入される。SAOと遠位型RTAを持つ患者に見られる、NaHCO3負荷時の尿-血液PCO2差が減少しないことは、このように、A型間在細胞においてAE1が管腔膜に挿入される(正常であれば、基底膜側に挿入される)ことによると考えられる。
参考文献
- Vasuvattakul S. Molecular Approach for Distal Renal Tubular Acidosis Associated AE1 Mutations. Electrolyte Blood Press. 2010;8(1):25-31.
- Vasuvattakul S, Yenchitsomanus PT, Vachuanichsanong P, Thuwajit P, Kaitwatcharachai C, Laosombat V, Malasit P, Wilairat P, Nimmannit S. Autosomal recessive distal renal tubular acidosis associated with Southeast Asian ovalocytosis. Kidney Int. 1999;56(5):1674-82.