月別アーカイブ: 2015年12月

酸塩基平衡異常とCKDの進行

Vallet M, Metzger M, Haymann JP, Flamant M, Gauci C, Thervet E, Boffa JJ, Vrtovsnik F, Froissart M, Stengel B, Houillier P, Houillier P. Urinary ammonia and long-term outcomes in chronic kidney disease. Kidney Int. 2015;88(1):137-45. [Pubmed]

 CKD患者において代謝性アシドーシスを補正することが腎機能低下の抑制につながることが想定されており、近年報告された2つのRCTによって、エビデンスが確立された。de Brito-Ashurstらの研究によれば、末期CKD患者の代謝性アシドーシスに対して重炭酸ナトリウムを投与すると、腎代替療法の開始を遅らせることができた。また、Mahajanらの研究によれば、早期のCKDで明らかな代謝性アシドーシスがない患者において、重炭酸ナトリウムの投与がGFRの低下のスピードを抑えた。
 これらの結果を受けて、CKD診療ガイドライン2013においても、
「重曹などで血中重炭酸濃度を適性にすると、腎機能低下、末期腎不全や死亡リスクが低減するため、代謝性アシドーシスの補正を推奨する。」
となっている。
 しかし、なぜ、代謝性アシドーシスを補正することによってCKDの進行が抑制されるのかは明らかでない。ひとつの可能性は、代謝性アシドーシスそのものが有害であるという可能性。もう一つは、酸負荷に見合う酸排泄ができていないことにより、皮質アンモニア濃度の上昇や腎臓のエンドセリン産生の亢進、RAA系の活性化などがおこり、線維化が促進される可能性が考えられている。もし、前者であれば、治療対象は、明らかな代謝性アシドーシスが現れるCKDの末期の患者が対象になる。後者であれば、血清重炭酸濃度低下が明らかでない早期のCKDも治療対象となる。
 これらのメカニズムを明らかにするために、Valletらは、尿中アンモニア排泄量と腎機能進行との関係を明らかにし、2015年にKidney International誌に報告した。この試験では、代謝性アシドーシスそのものではなく、尿中酸排泄能力の低下がCKDの進行と関わるかどうか調べた。対象はNephroTest研究の患者(CKD stage1〜4)の1065名であり、総静脈CO2濃度(tCO2)と尿中アンモニア排泄と長期のCKDの予後について調べた。患者の腎機能は、51Cr-EDTAを用いて実測され(mGFR)、中央値は37.6ml/min/1.73m2であった。尿中アンモニア排泄はGFRとともに減少したが、総体内酸産生(net endogenous acid production ; NEAP)は変化しなかった。4.3年間の長期フォローにおいて、201名の患者が末期腎不全となり、114名の患者が末期腎不全に至る前に死亡した。26%の患者のmGFR低下は年10%を越えた。尿中アンモニア排泄高値群に比べて、低値群では有意に末期腎不全のリスクが高く、mGFR減少のスピードも速かった。tCO2低値群では、有意にmGFRの低下のスピードが速かったが、末期腎不全のリスクは明らかではなかった。死亡率はいずれも相関しなかった。これまでの多くの研究は、酸バランスのサロゲートマーカーとして重炭酸濃度を用いていたが、本研究は、尿中アンモニア排泄の減少が、腎機能低下の予測因子になりえることを示したと言える。


血清Mg値とCKDの進行

Sakaguchi Y, Iwatani H, Hamano T, Tomida K, Kawabata H, Kusunoki Y, Shimomura A, Matsui I, Hayashi T, Tsubakihara Y, Isaka Y, Rakugi H. Magnesium modifies the association between serum phosphate and the risk of progression to end-stage kidney disease in patients with non-diabetic chronic kidney disease. Kidney Int. 2015;88(4):833-42. [Pubmed]

 高リン血症がCKDの進行を促進するというデータは数多く示されている。
 Mgはリンによって誘発される血管平滑筋細胞のアポトーシスを抑え、血管石灰化を防ぐ効果が知られている。大阪大学のグループは日本透析医学会が所有する維持透析患者のレジストリーを解析し、血清Mg濃度高値の透析患者では血清リン濃度の上昇に伴う心血管死亡リスクの有意な上昇が認められないことをすでに報告している。
 この知見の延長線上において、Sakaguchiらは、保存期CKDにおいて、CKDの進行と血清リンの関係が、血清Mgによってどのような影響を受けるかを明らかにし、Kidney International誌に報告した。
 大阪大学附属病院の311人の非糖尿病性CKD患者を対象とした。血清Mgと血清リンの値で4群に分けた。カットオフ値は、それぞれの中央値で、血清Mgは2.1mg/dL、血清リンは3.6mg/dLとした。中央値44ヶ月の追跡期間の中で、135人の患者は末期腎不全に進行した。様々な臨床要因を補正すると、Mg低値-リン高値群はMg高値-リン高値群に対して、2.07倍の末期腎不全発生率があり、EGFRの低下スピードも速かった。Mg高値-リン高値群とMg低値-リン低値群とMg低値-リン低値群では腎予後には差がなかった。尿細管細胞を高リン、低Mg培地で培養するとアポトーシスが増え、腎臓の線維化および炎症に関わるサイトカインのうちTGF-βとIL-6のmRNA発現が増加した。これらの変化は、Mgの濃度を増加させることで抑えられた。
 本研究の結果からリン過剰により惹起される腎障害や腎不全進行リスクに対してMgが保護的に作用する可能性が示唆された。そのメカニズムについては、まだ、詳細な検討が必要と考えられる。また、今後、特に血中リン濃度の高い慢性腎臓病患者に対してMgの補充が腎予後の改善につながるかも検証する必要がある。


尿中Ca排泄と血清Ca・血清ビタミンDとの関連

Rathod A, Bonny O, Guessous I, Suter PM, Conen D, Erne P, Binet I, Gabutti L, Gallino A, Muggli F, Hayoz D, Péchère-Bertschi A, Paccaud F, Burnier M, Bochud M. Association of urinary calcium excretion with serum calcium and vitamin D levels. Clin J Am Soc Nephrol. 2015;10(3):452-62. [Pubmed]

 Naと異なり、Caの場合、骨に大量のリザーバーがあるため、血清Caと尿中Ca排泄には相関がないと考えられている。大規模なコホート研究で尿中Ca排泄がデータとして取られていることが少ないこともあり、血清Caと尿中Caの相関を詳細に調べた研究はない。
 Rathod Aらは、Swiss Survey on Salt Intake Study(SSS study)のデータを用いて、尿中Ca排泄と血清Ca、血清ビタミンD値の相関を調べた。それによると、血清Caと尿中Ca排泄の正の相関は女性では認められるが、男性では認められなかった。また、Vitamin 25(OH)D3は尿中Ca排泄と男性では相関するが、女性では相関しなかった。本研究からは、ホルモン、食事による尿中Ca排泄が性別により大きく異なっていることが示唆される。

 


Gitelman症候群の治療

Blanchard A, Vargas-Poussou R, Vallet M, Caumont-Prim A, Allard J, Desport E, Dubourg L, Monge M, Bergerot D, Baron S, Essig M, Bridoux F, Tack I, Azizi M. Indomethacin, amiloride, or eplerenone for treating hypokalemia in Gitelman syndrome. J Am Soc Nephrol. 2015;26(2):468-75. [Pubmed]

 Gitelman症候群は、Bartter症候群類似の遺伝性疾患であり、低K血症、代謝性アルカローシス、低血圧ないし正常血圧を呈する。遠位曲尿細管に存在し、サイアザイド薬の標的であるNa-Cl共輸送体の遺伝子異常により惹起される。Bartter症候群より軽症であり、通常、成人になってから、発見されることが多い。
Gitelman症候群では、低K血症、低マグネシウム血症の症状を除けば、比較的予後がよいため、K補充、Mg補充を中心とした治療がおこなわれる。しかし、時に、K製剤だけでは十分にK補正が十分にできないときがあり、その場合には、K保持性利尿薬、NSAIDsなどが追加される。しかし、Gitelman症候群はまれな遺伝性疾患であるゆえ、これらの治療に関するエビデンスはなかった。
 2015年JASN誌において、Blanchardらが、Gitelaman症候群に対するインドメサシン、エプレレノン、アミロライドの効果と安全性に関する比較試験をおこなった結果を報告した。
 本試験は、open-label, randomized, crossover 試験であり、30人のGitelman症候群患者に対し、定常的なKおよびMgの補充に加え、インドメサシン徐放薬75mg、エプレレノン150mg、またはアミロライド20mgを6週間追加した場合の有効性と安全性を試験した。ベースラインの血清K値は2.8±0.4mmol/Lであり、インドメサシンによって血清K値は0.38mmo/L上昇、エプレレノンによって0.15mmol/L上昇、アミロライドによって0.19mmol/L上昇した。インドメサシンは有意にeGFRを減少させ、血清レニン濃度を減少させた。エプレレノンとアミロライドは血清アルドステロン濃度を3倍に増加させ、血清レニン濃度をわずかに上昇させたが、eGFRには影響しなかった。8人の患者が投薬を中止した。6人はインドメサシンによる胃腸障害のため、2人の患者はエピレレノンによる低血圧のためであった。結論として、いずれの薬もGitelman症候群患者の血清K濃度を上昇させた。インドメサシンはもっとも有効であったが、胃腸障害とeGFRの低下をもたらした。アミロライドとエプレレノンは同程度であるが、効果は低く、Na欠乏を誘発した。Gitelman症候群の患者を何人か外来治療している私にとっては、本論文は、個人的にも、今年もっとも役に立った論文だった。


血清K値とCKD患者の予後血清K値とCKD患者の予後

Luo J, Brunelli SM, Jensen DE, Yang A. Association between Serum Potassium and Outcomes in Patients with Reduced Kidney Function. Clin J Am Soc Nephrol. In press 2015.[Pubmed]

 CKD患者においては、健常に比べて、血清K異常が多い。重症の高K血症を除けば、血清K異常と予後の関係は不明である。また、eGFRの値によって、血清K異常の頻度や予後との関連を詳細に調べた研究は存在しない。
 LuoらはClinical Journal of American Society of Nephrology誌に、eGFRで層別化したCKD患者の血清K異常の頻度と、腎予後の関係について報告した。
 米国のマネージドケアHealthCare Partnersの患者のうち、CKD(eGFR<60ml/min/1.73m2)患者で血清K値のデータがある55266名を対象とした。移植患者と透析患者は除外した。
 まず、血清K異常の頻度であるが、血清K値5.5-5.9mEq/Lまたは6.0mEq/L以上は低いeGFR群に多く、eGFR 50-59 ml/min/1.73m2では、それぞれ1.7%と0.2%であり、30 ml/min/1.73m2未満では7.6%と1.4%であった。血清K 3.5mEq/L未満はすべてのeGFR群に1.2-1.4%いた。高K血症は糖尿病の合併、冠動脈疾患の合併、RAAS阻害薬の使用と相関があった。また、低K血症は女性に多く、サイアザイド薬の使用と相関があった。
 一方、血清K異常と予後(フォローアップの中央値2.76年)の相関であるが、血清K値と死亡率には、U-shapedの相関があり、死亡率は、血清K3.5mEq/L未満で3.05倍、血清K 6.0mEq/L以上で3.31倍高かった。各eGFR群においては、重大な心血管イベント、入院、RAAS阻害薬の中止と、血清K濃度にはU字の相関が認められた。
 以上の結果より、透析をおこなっていないCKD患者においては、高K血症、低K血症とも独立に、死亡、MACE、入院、RAAS阻害薬の中止と相関があると結論づけた。今後、血清K値を正常に保つことで、予後がどのようになるのか調べる必要があるだろう。


低Na血症に対する尿素の使用

Gankam Kengne F, Couturier BS, Soupart A, Decaux G. Urea minimizes brain complications following rapid correction of chronic hyponatremia compared with vasopressin antagonist or hypertonic saline. Kidney Int. 2015;87(2):323-31. [Pubmed]

 重症で慢性の低Na血症の治療においては、急速な過補正による浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome; ODS)を起こさないようにすることが重要である。高張食塩水とともに、海外ではバソプレシン受容体拮抗薬(バプタン)も低Na血症の治療薬として使われている。また、尿素は、わが国では薬物として承認されていないが、2014年に発表された欧州の低Na血症の診断治療ガイドラインは、以下のようにSIADHによる慢性で軽症の低Na血症に対して尿素の使用を推奨している。
7.4.3.2 In moderate or profound hyponatraemia, we suggest the following can be considered equal second-line treatments: increasing solute intake with 0.25–0.50 g/kg per day of urea or a combination of low-dose loop diuretics and oral sodium chloride (2D).

 尿素の低Na血症に対する治療効果は3つあると考えられる。1つは、脳浮腫の改善効果である。尿素は、尿素トランスポーターによって、水と同じくらいのスピードで筋肉などの細胞膜を通過するが、Blood-Brain Barrierはやや透過しづらい。したがって、尿素の投与による急速な血清尿素濃度の上昇は、Blood-Brain Barrierにおいて、浸透圧勾配を作り出し、脳からの水の流出を起こし、脳浮腫を改善する。2つめは血清Na濃度の上昇効果である。尿素は利尿物質としてもはたらく。尿素は糸球体を通過し、通過した約半分が尿中に排泄され、その際に、自由水の排泄も促す。これにより、血清Na濃度の上昇に働く。3つめに尿素の高浸透圧ストレスに対する保護作用である。尿素は、細胞を高浸透圧のストレスから保護する効果がある。尿素を培地に添加すると、腎髄質培養細胞は尿素なしではアポトーシスを起こすような高塩濃度でも生存可能である。慢性低Na血症における急速な補正によって起こるODSは、アストロサイトのアポトーシスが病態であると考えられている。尿毒症ラットでは、慢性低Na血症を高張食塩水で補正したときにODSをおこしにくいことが示されている。

 2015年のKidney International誌において、Gankam Kengreらはラットにおいて、尿素を用いて低Na血症を急速補正した場合には、高張食塩水またはバプタンを用いたときに比べて、ODSが起こりにくいことを報告した。

 臨床研究では、尿素のバプタンに対するSIADH患者への長期治療で同程度とであることが示されているが、本研究をもとに、過補正によるODSの発症頻度が低いことを示すような臨床研究が必要であろう。


輸液製剤として生理食塩水と、より生理的なCl濃度の緩衝晶質液のどちらが適切か?

Young P, Bailey M, Beasley R, Henderson S, Mackle D, McArthur C, McGuinness S, Mehrtens J, Myburgh J, Psirides A, Reddy S, Bellomo R, Bellomo R, Bellomo R. “Effect of a Buffered Crystalloid Solution vs Saline on Acute Kidney Injury Among Patients in the Intensive Care Unit: The SPLIT Randomized Clinical Trial.” JAMA. 2015;314(16):1701-10. [Pubmed]

 0.9%食塩液(生理食塩水)はもっとも使われている輸液である。0.9%食塩液のNa濃度は血清Naよりわずかに高いのみだが、Cl濃度は血清Clよりもかなり高く、0.9%食塩液を大量に急速に投与することにより、高Cl血症やアシドーシスを起こすことが知られている。
 また、近年、いくつかの研究において、より生理的なCl濃度の輸液に対して、0.9%食塩液が有害である可能性が指摘されている。具体的には、0.9食塩液の方が急性腎障害(acute kidney injury ; AKI)の発症や腎代替療法(renal replacement therapy; RRT)の必要頻度、死亡率が高いという指摘されている。たとえば、オーストラリアメルボルンの大学付属病院でおこなわれた、Yunosらの研究では、標準的な輸液療法に対し、Cl濃度の高い輸液(0.9%食塩液、4% succinylated gelatin液、または4%アルブミン液)を制限するかわりに、乳酸リンゲル液またはPlasma-Lyte 148または、Cl濃度の低い20%アルブミン液を用いると、AKIの発症とRRTの必要数は有意に低下した。
 これらの研究を進めるために、ランダム化試験であるSPLIT試験が企画され、2015年のJAMA誌において、Youngらが報告した。
 SPLIT試験(0.9% Saline vs Plasma-Lyte 148 for ICU fluid Therapy trial)はNew Zealandの4つの施設でおこなわれた多施設共同試験である。ICUで輸液治療が必要な患者2278名を対象とし、0.9%食塩液とPlasma-Lyte 148の比較をおこなった試験である。Plasma-Lyte 148 の組成はNa 140 mmol/L, K 5 mmol/L, Cl 98 mmol/L, Mg 1.5 mmol/L, Acetate 27 mmol/L, Gluconate 23 mmol/Lであり、ソルアセトF®などの酢酸リンゲル液に近い組成の緩衝晶質液である。参加したICUには、7週ごとに生理食塩液またはPlasma-Lyte 148が割り当てられ、28週間の中で、2回のクロスオーバーがおこなわれた。輸液のスピードや頻度は治療医にゆだねられた。 主要評価項目はAKI (血清Crの2倍以上の増加、または、0.5mg/dL以上の増加)の発生頻度であり、副次評価項目は、RRTの必要頻度、院内死亡率であった。
 90日間のAKI発症は、Plasma-Lyte 148群9.6%、生理食塩水群9.2%で、有意な差はなかった。RRTが必要になった患者は、Plasma-Lyte 148群3.3%、生理食塩水群3.4%で、有意な差はなかった。 院内死亡は、Plasma-Lyte 148群 7.6%、生理食塩水群8.6%で、有意な差はなかった。
 結論として、本研究では、ICUにおいて輸液療法を受ける患者において、生理食塩水に対して、緩衝晶質液でAKIのリスクを下げることができず、これまでの研究とは異なる結果となった。このことの原因として、ICU在室中の輸液量の平均が2Lと少ないことが考えられる。また、対象患者の重症度がそれほど高くなく(APACHE II score の中央値14)、多くの術後患者を含んでいたことも原因かも知れない。より高いリスク群において、さらなる試験が必要であろう。